『切らない脳外科治療 ― それってバズってる? 』

指宿脳神経外科 増田 次俊

私が脳外科医になってから干支で3まわりしました。その間、治療もいろいろと変化しましたが、その中でも外科でありながらメスを握らない機会が増えたことは特筆すべきかと思います。

今日は、歴史的な事柄も交えて3つの治療について述べます。

まずはガンマナイフをはじめとした放射線治療です。ナイフの言葉はありますが、実際に切り刻むわけではありません。具体的にはガンマ線を使用した治療で、日本に導入されたのは平成3年(1991)でした。それまでは、脳動静脈奇形の治療のために高額なお金を支払い、スウェーデンまで治療に行っていました。日本に導入されてからは保険適用になり、脳腫瘍や三叉神経痛などにも応用され、現在は多数個の転移性脳腫瘍については第1選択となりつつあります。付け加えるならば、メディポリス国際陽子線治療センターで行っている陽子線治療も放射線治療の一種で、正常組織へのダメージを極力抑えるという意味では両者は似た物同士でもあります。

次に広まったのが血管内治療です。これも先に心臓で普及していたステント治療が20世紀末に脳血管に応用されるようになりました。頸動脈狭窄に対して頸動脈ステント留置術が頸動脈内膜剥離術と並んで選択されるようになってきました。その後の血管内治療の進歩は目覚ましく、21世紀に入ると脳動脈瘤に対して離脱型コイルを使った塞栓術が始まりました。現在は脳動脈瘤の治療は、直達手術と血管内手術が半々となっています。平成22年(2010)には血管内による急性再開通療法が始まりました。犬の種類にレトリバーがいますが、これは狩猟の際に獲物を回収するという語源からきています。これと同じ語源でリトリーバーを用いた血栓回収療法が、機器の進歩とともに応用されています。アルテプラーゼ静脈注射血栓溶解療法に加え、血管内再開通療法が治療時間の延長、予後の改善に寄与しています。

最後に強力集束超音波治療(High Intensity Focused Ultrasound FUS)について述べます。概念は昭和32年(1957)3月にさかのぼります。頭蓋内への応用は、頭蓋骨での偏向、吸収が問題となるため実現不可能と思われていました。しかし、コンピューター断層撮影(CT)、磁気共鳴画像装置(MRI)、,そして超音波を連動し臨床使用させることが可能となってきました。細かい話は省略しますが、CTで骨を、MRIで脳温度をモニターして1mm程度の精度で熱凝固巣を手術的侵襲なく作ることができるようになりました。県内では厚地脳外科に導入され、本態性振戦に実用化されていますが、今後、パーキンソン病、神経原性疼痛、強迫性障害、三叉神経痛、てんかんなどへの応用が期待されています。30年の間にこれほど治療法は変化しています。それらが、この“すんくじら”の鹿児島で全て受けることができるのです。もちろん切る脳外科治療が無くなることはありませんが、選択肢が増えることは決してマイナスにはならないと思います。