糖尿病の治療~インスリン療法について~

指宿おおしげ内科 大重 聡彦

 糖尿病治療の1つにインスリン療法があります。 インスリンとは膵臓から分泌され、血糖値を調節するために必要なホルモンですが、インスリンの効き目が悪くなったり、インスリンの分泌量が減ったりすると、血糖値が 高くなると考えられています。インスリン療法は不足するインスリンを注射することで血糖値を確実に下げる治 療法です。
 糖尿病治療の過程でインスリン療法を提案しても、 「注射は痛そう」「始めたらやめられない」「インスリンをやるようになったらもう終わり」と治療を先延ばしにしたいと考える人も少なくありません。確かに、好きこのんで自分の体に針を刺す人はあまりいません。しかし、実際に治療で使う注射針は採血針の約3分の1の細さで、主におなかの皮下脂肪に刺すのでほとんど痛みを感じません。また、最近は早くからインスリン療法を始めることでさまざまなメリットがあることが分かってきました。 最大のメリットは、血糖値を確実に下げることで合併症の進行を予防できることです。
  血糖値が高い状態では、膵臓は血糖値を下げるためにインスリンをどんどん分泌しようと働き続けています。例えると、重い自転車にまたがり、急な上り坂を全速力で上っているようなものです。まだ若く元気な膵臓なら自力で上り続けることもできるでしょう。しかし、糖尿病を発症した時点で、インスリンを分泌する力(自転車をこぎ続ける力)は約50%に低下しているといわれています。そのような状態で急な坂道を上り続けると、徐々にスピードが落ち、最終的にはこげなくなってしまいます。場合によっては坂から転げ落ちて(糖尿病合併症を起こして)しまうかもしれません。
  インスリン療法は電動アシスト自転車のようなものです。自力で上るには難しい坂をアシストしてもらうことでスイスイと楽に上ることができます。その間にこぐ力が回復してくれば、平たんな道は普通の自転車に乗り換えればいいでしょう。
  糖尿病治療のゴールは元気に長生きをすることで、私たちも皆さんにそうあってほしいと思います。理想は自分の努力のみで目的を達成することです。それでも、糖尿病の食事療法を頑張っているのに血糖値がなかなか下がらず、精神的にも苦しい思いをされている人も多くいます。悩みを抱える人は一度主治医に相談して、インスリン療法を選択肢に加えてみてはいかがでしょうか。きっとあなたの人生のお役に立てると思います。