認知症簡易検査

橋口医院 橋口 尚文

 高齢者の皆さんが介護保険の申請や更新をする時は、主治医の意見書が必要です。その書類に医師は度々、長谷川式簡易知能評価スケール(長谷川式)検査の結果を記入しています。 この長谷川式は、正確に認知症の程度を測定する手段ではありませんが、認知機能低下の存在診断について有用な検査です。特にアルツハイマー型認知症では、直前の記憶を出し入れする脳の海馬が萎縮したことで、昔の事は、よく覚えているのに、直前に電話が掛ってきた事などを忘れてしまいます。長谷川式を手順通りに行えば、簡単に短い時間で検査できるため、全国の医療機関や介護施設で普及しています。
 この長谷川式を作った長谷川先生は、現在91歳で、2年前に自らが認知症になった事を公表しました。今年1月と3月に、NHKスペシャルで「認知症の第一人者が認知症になった」が放送されました
が、ご覧になった市民の皆さまもいらっしゃるのではないでしょうか。
 長谷川先生は「痴呆」という言葉を「認知症」と呼ぶ事を提唱され、認知症にかかった人の尊厳を守りながら、88歳まで診療を続けた人です。先生の症状は、認知症の多くを占めるアルツハイマー病や脳血管性認知症ではない進行の遅いタイプです。自分の研究の集大成として症状を日記に記録し、NHKスタッフが長期間日常生活を撮影しました。昨年末には「ボクはやっと認知症のことが分った」という本も出版しました。
 認知症になったからといって、人が急に変わるわけではない。自分が住んでいる世界は昔も今も連続しているし、昨日から今日へと自分自身は続いている。その時々の体や心の具合によって、認知症は良くも悪くも変動する。認知症の本質は、「暮らしの障害」であった、それまで当たり前のようにできていた「普通の暮らし」ができなくなることだ。認知症の人の言葉をよく聴いてほしい。聴くということは待つということ。待つということは、その人に時間を差し上げることです。
 長谷川先生は、体調の良い時に冷静に自分を分析し、この本を書いています。興味のある人は、ぜひ読んでみてください。  
 認知症における最大の危険因子は加齢です。認知症の有病率は70代前半では3%、80代後半で40%、90代以上では60%以上です。予防法は、「一生ならない」でなく「なる時期を遅らせる」ことを目的に、生活習慣病対策と健常時からの運動、禁煙が推奨されています。 残念ながら認知症に対する特効薬は、まだありません。